こんにんちは。
40代独女のMOMOです。(プロフィールはこちら)
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今回は朝井リョウさんの小説「生殖記」のご紹介です。

朝井リョウさんの小説のご紹介は「正欲」に続き2回目になります。
もし誰かに「生殖記ってどんな小説なの?」と問われたら…

日本に生息する30代男性の生殖器による日記みたいな小説だよ
あ、その個体(30代男性)は同性愛個体でもあるんだけどね
「はぁ?」(何言ってんの)です。
でも読みすすめていくうちに…
「なるほど~!だから“生殖記”なんだぁ」となりました。
この物語の語り手が生殖器(または生殖本能)だからです。
つまり、生殖器(生殖本能)目線の小説。その斬新すぎる設定に
「こんな手があったのか…(ワクワク)」と、震えました。(感動で)
今回も度肝をぬかれた朝井リョウさんの小説「生殖記」の紹介と感想です。☺
この記事はこんな人におすすめ です♪
- 本・読書が好きな人
- 朝井リョウさんの小説に興味がある人
- いろんな生物の生殖行動に興味がある人
- 自分が「マイノリティ(少数派)」だと感じたことがある人
生殖記(せいしょくき)
- タイトル 「生殖記」
- 著 者 朝井 リョウ(あさい りょう)
- 出 版 社 小学館
- 発 行 日 2024年10月7日
※こちらの記事は可能な限りネタバレしないように書いています。
作品紹介
主な登場人物
- 尚成(しょうせい)…とある家電メーカーの総務部に勤務する30代男性。同性愛者であることを周囲に隠し、異性愛者を装って生活している
- 大輔(だいすけ)…尚成の同僚で同じ独身寮に住む。尚成とは対照的に、積極的で社交的な性格で面倒見がよい
- 樹(いつき)…尚成の同僚で同じ独身寮に住む。大輔と交際している。リーダー的役割を任せられることが多い性格
- 颯(はやて)…尚成の後輩で、積極的に仕事に取り組むタイプ。のちに会社を辞めて独立する

語り手は生殖器
物語の語り手は尚成の生殖器(生殖本能)です。
尚成やその周辺の人々の言動や心理を客観的に観察し、描写します。
さまざまな生物を渡り歩いており、ヒトの生殖器につくのは尚成で2回目。
ヒトではパキスタンのイスラム教徒の女性の生殖器になったことがあります。
ヒト以外にもさまざまな種についた経験があり、ときどき生物のおもしろい生殖行動について語りだします。
感想
生殖器から見たのヒトの行動がおもしろい
オス個体とか、幼体とか、同性愛個体とか、異性愛個体とか。
語り手が生殖器ですから、登場人物を表す単語が冒頭から独特です。
しかし読み進めていくうちに、これがクセになり、おもしろい。
「人間(ヒト)って、地球上に存在する生命体の一部にすぎないんだなぁ」
小説を読んで、ヒトの営みを客観視するという初めての体験ができました。

共同体の均衡、維持、拡大、発展、成長なんてどうでもいい。にちょっと共感
同性愛個体として日本に発生したは尚成は幼体(子供)時代、
所属する共同体(学校と家庭)から排除されないよう擬態を続けます。
個人の感覚を捨て、共同体に受け入れられる異性愛個体として自分を上書きしたのです。
その結果、「寿命を効率よく消費するためだけに生きる」成体(大人)へと成長しました。
尚成にとって、共同体の均衡、維持、拡大、発展、成長なんてどうでもいい。
このあたりの感覚、私もちょっとだけ理解できます。
言ってはいけない、なんとな~くの雰囲気。を読み、
職場や家庭など所属する共同体で、自分の役割を演じている。
本当は「どうでもいい」と思っている瞬間、私もあります。(職場での会議中とか)
そんなヒトの行動心理を生殖器がユーモラスに描写している点も小気味よく、
朝井リョウさんの才能に感動しつつ、ニヤニヤしながら読了しました。
いつのまにか変わる価値観。えー昔の苦労はどうなるの⁉
今をさかのぼること20年前、LGBTQなんて言葉はおそらく存在しておらず、
同性愛者を嘲笑するようなバラエティー番組を堂々とテレビで流していました。
それが今はどうでしょう。
今をさかのぼること20年前、私が社会人になったばかりの頃、
若い女子社員は堂々と男性社員のセクハラの対象になっていました。
もちろん、モラハラやパワハラなんて概念も皆無に等しかった。
それが今はどうでしょう。
この物語の尚成も幼体(子供)時代、同性愛者であることを隠すため必死で異性愛者に擬態していました。
それが成体(大人)になって急に社会の空気が変わり
「同性愛もLGBTQも、ぜんぜん認めるよ~」
「てゆーか差別する方がダサいよね」
とか言われても、当事者本人が価値観の変化についていけない。
「えー私の昔の苦労はなんだったの?」ってなるよね。
物語の後半にかけて、変われそうで変わらない尚成にヤキモキしながら、
尚成らしい結末を迎えたことに、ちょっとだけ安心しました。

おわりに(手は添えて、力は込めず)
朝井リョウさんの「正欲」を読んだときにも感じた“初めての感覚”
「生殖記」はさらにそれを超える“初めての感覚”がありました。
だって、語り手が生殖器だから。
個人的には尚成の「手は添えて、だけど力は込めず」的な生き方も、
これまでに私が所属した共同体を振り返ってみると、
どこの共同体にも、10人に1人はいた気がします。
大多数が尚成のようなタイプだったら共同体の発展は遅れるかもしれませんが、
何事もバランスが大事なのかもしれません。
(みんながガツガツしたタイプだと疲れちゃうしね)
誰かに勧められた訳でもなく、なんの前情報もなく手に取った一冊でしたが、
思いがけず、新鮮で嬉しい出会いになった読書体験でした。
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