こんにんちは。
40代独女のMOMOです。(プロフィールはこちら)
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窪美澄さんの小説「夏日狂思(かじつきょうそう)」のご紹介です。
物語の主人公・礼子は実在した松竹の大部屋女優だった長谷川泰子をモデルにしています。
詩人の中原中也と文芸評論家の小林秀雄との恋の三角関係でも知られる長谷川泰子という女性。
2025年2月に公開の映画『ゆきてかへらぬ』で女優の広瀬すずさんが長谷川泰子役を演じることでも話題になっています
小説「夏日狂思」では、主人公・礼子の華やかな恋愛遍歴だけでなく、
女文士としての彼女の苦悩や魅力も描かれています。
大正という時代を数々の恋に翻弄されながら、自由に、もがきながら生きた女性の物語です。
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作品紹介「夏日狂思」
タイトル 「夏日狂思」(かじつきょうそう)
著 者 窪 美澄(くぼ みすみ)
出 版 社 新潮社
発 行 日 2022年9月30日
女は、男たちのように芸術に関わってはいけないのだろうか、芸術を生み出すこともできないのだろうか? 大正から戦後の昭和にかけて、詩人、作家、評論家……さまざまな文学者たちとの激しい恋の果てに、互いに傷つけ合いつつも礼子がついに掴んだものは――。時代に抗いながら創造する女を描き出した新たな代表作の誕生
新潮社公式HPより
※こちらの記事は可能な限りネタバレしないように書いています。
実在したモデルたち
小説「夏日狂思」は実在した松竹の大部屋女優・長谷川泰子と、彼女と恋の三角関係にあった
詩人の中原中也、文芸評論家の小林秀雄をモデルにした小説です。
登場人物とその実在のモデル
- 野中 礼子…長谷川 泰子がモデル
- 水本 正太郎…中原 中也(詩人)がモデル
- 片岡 武雄…小林 秀雄(文芸評論家)がモデル
主人公・野中 礼子(長谷川 泰子)
↑主人公の礼子のモデルとなった長谷川泰子さん。
長谷川泰子は広島県で誕生し、実家は裕福で人力車で小学校へ通っていたといいます。
しかし幼いときに父親を失くしてから、泰子の生活は苦労の道へと傾いていくことに…
紆余曲折をへて、教会で出会った大空詩人の男とともに女優を夢みて上京しするも、
間もなくして関東大震災に遭ってしまいます。
男と京都へ生活を移し、その地で泰子と中也は運命的な出会いを果たします。
小説「夏日狂思」の主人公の礼子も、長谷川泰子さんの人生をなぞるようにストーリーが進展していきます
水本 正太郎(中原 中也)
愛するものは、死んだのですから、
たしかにそれは、死んだのですから、もはやどうにも、ならぬのですから、
そのもののために、そのもののために、中原中也「春日狂想」より
山口県の名家の長男に生まれ、将来を嘱望された中也8歳のときに弟が病死。
そのショックから詩作をはじめ、文学にのめり込んでいきます。
30歳で死去するまで、生涯で350篇以上の詩を残した若き天才詩人の中也。
中也が16歳のときに、当時マキノプロダクションの大部屋女優だった3歳年上の泰子と京都で出会い同棲を始めます。
その後、中也と泰子はともに上京するのですが、このあたりのことも小説「夏日狂思」のなかで、水本正太郎の名で、史実に基づいて描かれています。
片岡 武雄(小林 秀雄)
現在の東京都千代田区神田生まれの小林秀雄は中也より5歳年上、泰子より2歳年上の文芸評論家です。
小説「夏日狂思」を読むまで小林秀雄さんのことは全く知りませんでしたが、のちに文化功労者・文化勲章などを受賞する日本の文学界の礎を築いた人物です。
で、中也と泰子が上京したときに最初は中也と文学を通じて親しく付き合うようになりますが、
自然と泰子とも懇意になり、ついには中也から泰子を奪い、泰子と同棲を始めます。
泰子と秀雄の同棲生活のことも「夏日狂思」のなかで描かれているのですが、
その後も中也・泰子・秀雄の3人の関係は続いていきます。
男女の関係や人間同士の繋がりや絆は当人同士にしか分からないものですが、傍からみたら奇妙に見える三角関係が、私たちの関心を引くのかもしれません
感想
女性の地位が低かった時代 男性社会で必死に生き抜く礼子
小説「夏日狂思」を読んで驚いたのは、大正~昭和初期の女性の地位の低さです。
結婚して良妻賢母になることだけが女性の正しい生き方とされた時代背景や価値観が、
物語のそこかしこに散りばめられているのです。
ましてや礼子がいた映画界は男性社会そのもの。
「年増でインテリの扱いずらい大部屋女優」
そんな風に男たちに揶揄されながらも、迎合することなく不器用に生きる礼子の姿が印象的です。
この時代に比べたら男女間の地位の差はかなり縮まったとはいえ、
私がまだ20代の頃はこの風潮が残っていたと思います。
(今から四半世紀近く前のことですが…)
だからこそ、礼子が男社会で生きる味わった悔しさや惨めさが身につまされる…
諦めの境地から、さらに硬く神経質になっていく礼子の姿に歯がゆさを感じずにはいられませんでした。
男を「父親」にしてしまう礼子。男から男へと渡り歩く
溺愛してくれた父親を、幼少期に目の前で失くした礼子。
そのせいか作中の礼子は関わる男すべてを「父親」のような存在にしてしまいます。
広島から女優を目指して上京する大胆さを持ちながらも、
幾人もの男を渡り歩きながら、礼子はいつも男性に依存している。
というか、男性に対して父親のように甘えているように見えます。
一方で男性に「父性」を求める女性の気持ちは、よく理解できます。
男性が「母性」を求めるように、多くの女性も男性に「父性」を求めている。
自分や周囲の女性を見渡してみても、そんな女性は案外多いことに気づかされました。
売れない女優に酒場のマダム、何をしていても根底にある「文学との繋がり」
冒頭でも書いたように小説「夏日狂思」では、礼子の女文士としての側面も描かれています。
売れない女優・酒場のマダム・掃除婦などあちこちと職を変え、ついでに男も変えながらも、
礼子のそばに常にいるのは「物を書く男」
そして礼子自身も「物を書きたい」という気持ちをいつも持っています。
物語の後半では礼子の華やかな恋愛から「物書き」としての姿にスポットがあたっていきます。
年を重ね、物を書きながら、つましく堅実で自立した生活を送る礼子の姿に、
読み手の私自身が救われたような心持になりました。
しなくても良い苦労を重ね七転八倒した若いころに比べ、年を重ねるにつれ本当の自分を理解した礼子は、
ようやく“生きやすさ”を手に入れたように思えたからです。
おわりに(映画「ゆきてかへらぬ」の原作本も読んでみた)
広瀬すずさん主演の映画「ゆきてかへらぬ」は長谷川泰子本人が書いた本が原作になっています。
で、私もさっそく読んでみました。
「中原中也との愛 ~ゆきてかへらぬ~」
晩年の長谷川泰子が自身の過去を振り返る形で書かれた本書。
中原中也や小林秀雄の他にも有名な文学者や作家など、時代を彩った著名人の名が沢山でてきます。
さらに本書では、小説「夏日狂思」では細かく描写されいなかった泰子の潔癖症の側面がけっこう細かく語られています。
小林秀雄と同棲していた時代に泰子は潔癖症がひどくなるのですが、想像以上にこじらせている…
中也から奪った泰子と秀雄の2人の生活が凄絶すぎるのです。
「泰子って今でいう“メンヘラ”なのでは…」
小説とはちょっと違う泰子の人物像や、関わった男性たちとの関係性が垣間見えて、これはこれで面白かったです。
とゆうか、このある意味アクの強い長谷川泰子という女性を、
あのかわいらしい広瀬すずさんがどのように演じるのか楽しみです。😳
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